死んだ子の年を数える

8歳のころから死にたい、15歳からひきこもり、現在30年経過。

中学生や高校生が万引きをして欲しい物やお金を手に入れるのは実は生存戦略でした。

 ほとんどの家庭で衣・食・住で困ることがなかった時代です。子どもたちが万引きをする目的はモノではなくスリルや達成感が目的で、盗んだものは公園のゴミ箱に捨てているとまでいわれていた時代のことです。

 高校2年生のころ、中学生のとき同じクラスだった人にたまたま会って話をしました。

 「あの駅の前にある大きな本屋で万引きをして学校のともだちに売ってお小遣いを稼いでいる。額はおおきくないかな、まだ数万円ぐらい。」

 一人ではなく別々の3人が同じことをいいました。中学は同じでも高校はみんな別々、さらに彼ら同士には接点がありません。

 令和元年のいま、彼らは皆、立派な社会人です。結婚もし、子どももいる。中には小学校の先生もいます。他の同級生と比べても比較的幸せな家庭を築いている人たちです。

 私が考え抜いて出した結論はこれです。

 彼らは、やって得なことと損なこと、更に成功したときの利益と失敗したときの損とを鋭く見分け、実行する力をもって実行している。

 みんな口を揃えて、万引きをしている場所は「あの駅の前にある大きな本屋」というのです。ある一人が「小さい本屋は店主が目を光らせていて、みつかったらすぐ警察と学校に連絡する。あの本屋はつかまっても反省しているふりさえしていれば見逃してくれるし、皆が欲しがる高額な本も置いてある。」と教えてくれました。

 当時は監視カメラも多少なく、万引き防止用のゲートもありませんでした。アルバイトの店員では通報して指摘とかは難しいし危険ですよね。

 彼らは特に金銭的に困ってもいませんでした。その上で万引きと転売で得られる利益と捕まったときのリスクを見極めることができ、それを実践してたのです。

 高校生にとって1万円は10時間アルバイトをして手に入れられる額です。楽器を買ってバンドを組む、遠方でのコンサートやフェスに行く、恋人との時間を楽しむ。自分のアルバイトの時間を減らし、空いた時間と得られたお金を趣味や恋愛、勉強などにまわす。若いうちから様々な経験を積むためにはとても効率が良い方法です。

 利益と損害を比較し、利益になる行動をする。彼らのその能力は、令和という弱肉強食の進んだ時代だからこそ、人生というサバイバルで勝ち残るため大切な技能なのだと感じました。若いときからお金と時間を比較し、リスクと利益のバランスを見極める。そして得た利益で更に良い経験を多く積む。さらにまた損と得を比べ、比較的お得となる方法を実践してゆく。年齢相応にそれが成長していっているのではないかと感じます。

 令和という格差と貧困が深刻になる時代、これらのサバイバル術はとても重要なものとなっています。いまの中学生、高校生たちはどのように生き抜いているのでしょうか。賢い若者の行動は想像もつきません。 ※私が不思議に思ったのは「公平世界仮説」という心理の罠にはまっていたからのようです。店のものを盗って換金するなんてことをしていたらしっぺ返しがくる、などというまさに幼稚なもの。それとともに、高校生ぐらいになったら、少しずつ嘘をついたりなどの必要悪も身についてくるということに気が付けなかった、幼稚なものだったということです。