平成24年7月30日宣告 犯行に至る経緯や動機についてアスペルガー症候群の影響があったことは認められ,許される限り長期間刑務所に収容することが,社会秩序の維持にも資する。
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平成24年7月30日宣告 平成--年(-)第--号 判 決 要 旨 被告人 ■■■■■■■■■■■■ 検察官 ■■■■■ ■■■■■ ■■■■■ 主 文 被告人を懲役20年に処する。 未決勾留日数中210日をその刑に算入する。 押収してある文化包丁様の刃1個(平成24年押第104号符号1)及び 文化包丁様の柄1個(同号符号2)を没収する。 理 由 (犯行に至る経緯) 被告人は,小学5年生の途中から不登校となり,その後,中学校にも通わず、約 30年間のほとんどを,自宅で引きこもる生活を送ってきた,被告人は,このまま 家に引きこもっていては駄目だからやり直したいと思い,引きこもる前の小学校と 別の校区の中学校に転校したり,自分のことを能も知らない遠い場所で生活したり したいと思って両親に頼んだが,いずれも実現しなかった,被告人は,これらの自 分の頼みが実現しなかったのは,長姉である■■■のせいであると勝手に思いこん で,そのころから■■のことを恨むようになった。その後、母親が,本当は■■と 会っているのに被告人に嘘を吐いているなどと思うに至って,■■への恨みが更に 募り,母親を■■のところに行かせて金を無心させて■■にダメージを与えてやろ うと思って、24,25歳のころから,母親の給料を一部取り上げて,■■のとこ ろへ家賃を払う金を借りに行かせるようになった。 他方,被告人は,25,26歳のころ,漠然と自殺を考え始め,34歳のころ, インターネットで自殺の方法を調べようと思い、しかも,■■にパソコンを買わせ たら,■■に金銭的にダメージを与えることができて一石二鳥だと考えて,母親を 通じて■■にパソコンを買ってほしいと頼むようになった、これに対して■■は, 被告人に中古のパソコンを買って与えたが,被告人は物に触ると手が汚れる感じが するのが嫌で,中古のパソコンという他人が触った物を触るのが嫌だったことなど から,■■に対する恨みが更に強くなり,その後も,母親を通じて,■■に対して 新品のパソコンを買うように要求し続けていた。しかし■■が被告人に対して新品 のパソコンを買ってくれないことで,被告人の■■に対する恨みは更に強くなった。 平成23年4月から5月にかけて母親が入院したときに,母親の代わりに■■が 買い物をして届けてくれたことがあったので,被告人は,母親に暴力をふるって入 院させたりしたら,■■が再び被告人宅にくるだろうと思い,母親が施設に保護さ れたら,■■が被告人方に入ってきたときに,自宅にある包丁で刺して殺そうと考 えた。 同年6月17日,被告人が母親に暴力をふるって怪我をさせたので,■■が母親 を施設に入所させた。■■は被告人方に生活用品を届けていたが,被告人の自立を 願って,同年7月13日,被告人に対して「食費やその他のお金を自分で出しなさ い。買い物はする。」との書き置きを残していった。これを見た被告人は,■■が 自分のことを助けるつもりがなく、報復してきたのだと受け止め,■■が被告人方 を訪れて台所の奥にいるときであれば逃げにくいから確実に殺せるので,このとき に包丁で刺して殺そうと考え,台所にある刃体の長さ約15.7センチメートルの 文化包丁様のもの(平成24年押第104号符号1及び2が折れる前のもの)を自 室に持ち込み,犯行に備えた。 (罪となるべき事実) 被告人は,平成23年7月25日午後2時15分ころ,大阪市■■■■■■■■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■の被告人方を訪れた■ ■■(当時46歳)に対して,殺意をもって,■■の心窩部や左上腕等を上記包丁 で多数回突き刺し,よって,同月30日午後6時13分ごろ,■■■■■■■■■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■病院において,■■を肝臓刺創及び左 上腕動脈損傷に基づく出血性ショックによる低酸素虚血性脳症により死亡させて殺 害した。 (量刑の理由) 第1 被告人の行為に対する評価 1 被害者の腹部に厚さ約3センチメートルの腹壁を貫通する長さ約7センチメ ートルの刺し傷があり,これが肝臓を貫通しており、これ以外にも被害者の左 上腕には動脈を完全断裂する長さ約7センチメートルの切り傷があるなど,被 害者は多数の傷を負ったものである。また,犯行現場周辺には被害者の血痕が 多量かつ広範囲にわたって認められる。これらの事実からだけでも被告人は強 い殺意をもって,逃げようとする被害者に対して執拗に攻撃していることが明 らかであり,本件犯行の残虐性や結果の重大性等からすれば被告人の刑事責任 は極めて重く、本件は刑の執行猶予をもって臨む事案ではない。 2 被害者は被告人の自立のために精一杯の努力をしてきたものであり,現に, 犯行当日も被告人のための生活用品等を被告人に届けるためにわざわざ被告人 宅を訪れたものであり,本件犯行に遭わなければならないような落ち度は全く 見当たらない。それにもかかわらず,被害者が実の弟である被告人の手によっ て残酷に殺されようとしていた際、被害者が受けたであろう恐怖あるいは絶望 感,夫や子供を残して46歳という若さで命を絶たれなければならないことの 無念さなどは想像すらできないほど大きかったはずである。被害者が被告人の ために身体的にも金銭的にも尽くしていたにもかかわらず,本件のように理不 尽に殺害されたことに対する遺族の悲しみや怒りも大きく,「■■は,殺され て不本意に人生を終えざるを得なかったのに,殺した張本人がその後も生き続 けられるということに対して,私はとうてい納得ができません。」「一生刑務 所から出てこれないようにしてほしいです。」などと述べて被告人に対する厳 しい処罰を望む心情は,人間の持つ当然の気持ちとして十分に理解することが できる。 3 弁護人は,被告人が被害者に対して恨みを募らせ,それが強固な殺意にまで 膨れあがってしまったのは,アスペルガー症候群という精神障害のためであり 被告人にはこの恨みの感情をどうすることもできなかったから,この点を量刑 上大いに考慮すべきであると主張する。 確かに,(犯行に至る経緯)で判示したような犯行動機の形成過程は通常人 には理解に苦しむものがあり,精神科医である■■■証人が証言するとおり, 本件犯行の動機の形成に関して,被告人にアスペルガー症候群という精神障害 が認められることが影響していることは認められる。しかし,被告人が供述す るような動機に基づいて被害者を殺害することは,社会に到底受け入れられな い犯罪であるし,被告人もそのことは分かっていた旨供述している。そうであ るならば,被告人は,被害者の殺害に向けて計画を立て,公判廷で述べるとお り,一時犯行を思いとどまりながらも、「ここで姉を殺さなければ,自分は一 生姉を殺すことができなくなる。自分が自殺するためには姉を殺さなければ悔 いが残る。」などと考えて,最終的には自分の意思で本件犯行に踏み切ったと いえるのである。したがって、本件犯行に関するアスペルガー症候群の影響を 量刑上大きく考慮することは相当ではない。 4 以上検討したとおり,本件犯行の手段は計画的であること,犯行の態様は執 拗かつ残酷であること,生じた結果は極めて大きく,遺族の処罰感情も厳しい こと,犯行に至る経緯や動機についてアスペルガー症候群の影響があったこと は認められるが、これを重視すべきではないこと等の事情を総合するならば, 被告人の刑事責任は重大であり,被告人に対しては長期の服役が必要不可欠で ある。 第2 具体的な量刑 1 そこで被告人に対する具体的な量刑について検討する。被告人や関係者等を 直接取り調べた上で本件行為に見合った適切な刑罰を刑事事件のプロの目から 検討し,同種事案との公平、均衡などといった視点も経た上でなされる検察官 の科刑意見については相応の重みがあり,裁判所がそれを超える量刑をするに 当たっては慎重な態度が望まれるというべきである。 しかしながら,評議の結果,先に検討した各事実に加えて、以下の観点から の検討も十分に行うことが必要であり,重要であるという結論に至った。 2 すなわち,被告人は,本件犯行を犯していながら,未だ十分な反省に至って いない。確かに,被告人が十分に反省する態度を示すことができないことには アスペルガー症候群の影響があり,通常人と同様の倫理的非難を加えることは できない。しかし,健全な社会常識という観点からは,いかに病気の影響があ るとはいえ,十分な反省のないまま被告人が社会に復帰すれば,そのころ被告 人と接点を持つ者の中で,被告人の意に沿わない者に対して,被告人が本件と 同様の犯行に及ぶことが心配される。被告人の母や次妹が被告人との同居を明 確に断り,社会内で被告人のアスペルガー症候群という精神障害に対応できる 受け皿が何ら用意されていない上,その見込みもないという現状の下では,再 犯のおそれが更に強く心配されるといわざるを得ず。この点も量刑上重視せざ るを得ない。被告人に対しては,許される限り長期間刑務所に収容することで 内省を深めさせる必要があり,そうすることが,社会秩序の維持にも資する。 3 上記の評議の結果を踏まえると,本件においては検察官の科刑意見は軽きに 失すると判断することもやむを得ず,被告人に対しては殺人罪の有期懲役刑の 上限で処すべきであるとの判断に至ったので、主文のとおり刑の量定を行った。 (求刑 懲役16年及び主文同旨の没収) 平成24年7月30日 大阪地方裁判所第2刑事部 裁判長裁判官 河 原 俊 也 裁判官 武 井 仁 美 裁判官 伊 藤 太 一






